今回は製薬会社の将来性について書いていきます。
現在新薬の開発が難しい関係で製薬会社の経営が厳しい状況であるということはご存知の方も多いと思います。
Contents
なぜ経営が厳しいのか
これにはいくつかの理由が考えらます。
製薬会社の経営が厳しい理由
- 新薬を出しにくい
- 後発品の使用が促進されている
- 長期収載品目の売り上げに頼っている
僕の考えではこんなところです。一つ一つ解説していきます。
新薬を出しにくい
そもそも新薬を開発すること自体が難しいのです。
理由は市場に有効な薬がすでに多く出回っているためこれからの新薬に求められることが以前よりも多くなってきているからです。
優れた薬剤を開発することの難易度が以前よりも高くなっているため新薬の発売が厳しい状況になっています。
具体的に書くとこれから発売される新薬には既存品で解決できない新しい効果があったり、既存品よりも副作用が少ないなどの特徴がないと新薬とはいえ、なかなか医者に受け入れてもらえません。
もっと細かく書くと効果、副作用、アドヒアランス、剤型などを中心に既存品よりも画期的な部分がないと厳しいですね。
治療満足度が高く治療に対する薬剤の貢献度が高い薬が多い領域ではこれ以上新薬を開発する必要はあまりありません。
具体的には消化性潰瘍、脂質異常症、糖尿病、高血圧などの疾患は今ある薬剤でほぼ十分と言われています。
これらの領域で画期的な新薬を開発するのは至難の業です。(理由はもうある程度間に合っているからです。)
逆に治療満足度が低く治療に対する薬剤の貢献度が低い薬が多い領域(アンメットメディカルニーズ)では新薬の開発が必要とされています。
ただこれらの疾患は病態が複雑だったり発現機序が正確に解明されていなかったりとまだまだ未知のことが多いので有効な薬剤を開発することがそもそも難しいです。
また原因を突き止めたとしてもそれを治療する方法がなかなか見つからないケースもあります。だから現在でも研究開発が行われています。
新薬の開発が待ち望まれている疾患の薬を発売すればあっという間に普及します。
その中でも最初に発売した薬はやはり売れます。(糖尿病治療薬であるDPP4阻害薬のジャヌビア・グラクティブがいい例です)
今まで有効な薬が少なかった疾患の新薬(画期的な新薬に限る)が出た場合は爆発的に売れます。
そして似たような薬がその後発売されますがやはり明確な差別化のポイントがないと最初に出た薬が多く使われます。(DPP4阻害薬は次々と各社が発売しましたが結局排泄経路や服薬回数くらいしか主な差別化ポイントがなく苦戦していました。)
それだけ最初に出すということは大きなアドバンテージになります。最初に発売された薬はデータの量も多いし使う先生も多いのでトレンドにもなります。
トレンドになった薬はどんどん普及していきます。この牙城を崩すのはなかなか厳しいですよね。
これは僕の経験からも最初に出た薬が売れることは間違いないと言えます。(繰り返しになりますがそれなりに期待されていた新薬に限りますけどね。)
(糖尿病の薬であるSGLT2阻害薬は新しい作用機序の薬でしたが、DPP4阻害薬がすでに発売されており、しかもかなり評価されていたのでそこまで爆発的には売れませんでした。)
ゆえに、新薬を開発する難しさが以前よりも上がっていることから新薬が出にくい状況になっております。
まとめ
- すでに有効な薬が市場に多く出回っている
- 画期的な要素がないと新薬として発売しても厳しい
- 求められる薬剤の期待度が以前よりも高くなっている
後発品の使用が促進されている
これは国の方針で「2020年9月までに後発品の使用率を80%まで上げる」という目標が掲げられています。(詳しくは厚生労働省のホームページを参照してください。)
後発品は価格が安く先発品と同等の効果を発揮するので医療費の削減には必要不可欠なものです。
海外では後発品が出た瞬間にほとんど後発品へ移行します。日本は後発品への移行が遅い方の国です。
また診療報酬の観点からみても後発品を使えば薬局や医療機関にメリットがあるようになってきています。(外来後発医薬品体制加算)
だから後発品を使わない方がデメリットが大きい時代になってきています。国の政策ですのでMRがどうこうできる問題ではありません。後発品に変わるのは仕方のないことです。
という変わらないと医療費がどんどん膨れ上がります。
長期収載品目の売り上げに頼っている
先発メーカーであれば新薬を継続的に開発しなければ利益の確保が難しくなります。
ただ新薬の開発は厳しい状況にあるので実際には特許が切れた薬剤である長期収載品目が会社の利益の大半を占めている製薬会社もあります。
長期収載品目は薬価がとても低いしこれからもどんどん低くなります。さらに特許が切れているため徐々に後発品に変わっていきます。
だから今後利益が減ることはあっても増えることはまずありません。売り上げの内訳で長期収載品目の割合が大きい製薬会社も意外と多く存在します。
薬の特許はいずれ切れるので継続的に新薬を出していかないと先発メーカーは利益を確保することが難しくなってきます。
これが現在起きている現象です。
そこで新薬が出ないメーカーはジェネリック医薬品を扱ったりするわけですね。ただ新薬メーカーが中途半端にジェネリックを扱ったとしてもそこまでは利益を確保できません。
後発品を専門に扱うメーカーもありますので競争は厳しいです。
まとめると新薬が出ない先発メーカーの将来性は黄色信号ということです。
もちろん自社開発品がなくても導入するという手がありますので新薬を出すことはできます。
ただ導入品というのはすでにある薬剤を導入することしかできないため会社の方向性と合うような製品があればいいですが、ないことも考えられます。
利益率が高いのは自社開発品です。
実際に会社の存続のため自社が強くない領域の薬剤を導入するようなケースも多くあります。
これはMRにとってはかなり大変なことです。
新しい領域に参入すると製品の勉強はもちろんですが新たに疾患の勉強もしなければなりません。
また新しく訪問する医療機関も増えるため訪問ルールの把握や信頼関係の構築も合わせてやらなければなりません。
現在の訪問施設にプラスでこれらの仕事をこなさなければいけないのでかなり大変です。
だから同じ領域の薬を出し続けた方がMRにとっては働きやすいですね。ですので領域に特化しているスペシャリティファーマは強いです。
まとめると長期収載品目の占める割合を減らして新薬の割合を増やして利益を拡大していくことが製薬会社にとっては理想の展開となります。
経営が厳しくなった場合会社はどうなるのか
経営が厳しくなれば当然規模を縮小したり事業の売却が行われる可能性が高いです。
実際にMRの早期退職(リストラ)は規模の縮小ですし〇〇領域を他の製薬会社に売却したみたいな例も珍しくないですよね。
それではどんなタイミングで製薬会社の経営が厳しくなるのかを考えてみたいと思います。
主なタイミングは以下の2点です。
- 主力製品の特許が切れた時
- 期待された新薬の売り上げが伸びない時
主力製品の特許が切れると
主力製品というのは会社の売り上げの核となる製品のことです。
多くの製薬会社は大体3製品くらいが会社の売り上げの半分を占めています。
従って主力製品の特許が一つでも切れると会社にとっては大打撃です。
(例)エーザイのアリセプト
期待された新薬の売り上げ
期待された新薬というのは製薬会社が発売前に売れると見込んだ製品のことです。
薬の売り上げは開発段階でおおよその予想ができます。
あとはそのシミュレーション通りに売れるかどうかですが思った程売り上げが伸びないということも実際にあります。
(例)SGLT2阻害薬は海外では結構売れているが日本では苦戦
ここからは特許切れについて詳しく考えていきます。
まず薬というのは
- 一つの施設で多く処方される薬
- 幅広い施設で処方される薬
があります。
❶一つの施設で多く処方される薬剤は後発品に一括で切り替えられた場合、売り上げがガクッと下がります。
❷それに対して幅広い施設で処方されている薬剤に関しては少しずつ後発品に切り替わっていくため売り上げは緩やかに下がっていきます。
どの製薬会社にも主力製品は必ずありこの主力製品の特許切れというのは製薬会社に必ず訪れる試練です。(パテントクリフってやつです)
薬の特許が切れた場合ジェネリックに変わってしまうので売り上げがかなり落ちます。
中にはジェネリックからの防衛に力を入れている製薬会社もありますがはっきり言って無駄です。
薬局にとってわざわざ先発品を使う必要はありませんからね。
従って主力品の特許が切れた場合落ちた売り上げをカバーする製品が出てこないと利益の確保は難しくなります。
大手の製薬会社はこの辺の計画がしっかりしています。
主力製品の特許が切れても既存品の売り上げを上げて対処しています。
そして次なる主力製品候補の発売が控えているので会社が存続できるわけです。
ただ皆様もご存知の通りこのような骨太経営ができる製薬会社はごくわずかです。
それではもし仮に既存品の売り上げを上げることができないケースや新薬の発売予定がない場合どうなるのかを考えていきたいと思います。
想定される会社の行動
- MRの数を減らして規模を縮小する
- 製薬会社同士で合併する
- 他の製薬会社に吸収される
こんなところです。過去の例を参考にしました。
この中でも一番多いのがMR数を減らして規模を縮小するです。
会社にとって人を減らすことが一番やりやすい規模の縮小です。
以前は終身雇用の考え方が一般とされていましたが現在では製薬業界問わず多くの企業が会社員の早期退職を実施しています。
だから会社として時代の波に乗って早期退職を実行しやすいと思われます。
特に日本はこのような傾向が強いですね。
製薬会社同士の合併と吸収はそれなりのリスクがありますし準備も必要なので計画的に実行する必要があります。
だからすぐに行われることは考えにくいです。
ただ既存の医薬品を供給しなければならないので会社が潰れるということは考えにくいです。
だから事業を残したまま経営する状態が変わることが推測されます。過去にも合併や吸収は多く行われてきました。
有名なところだとアステラス製薬は山之内製薬と藤沢薬品工業が合併してできた会社ですしファイザーは多くの製薬会社を吸収しています。
またある事業を手放すというやり方もあります。
例えば「〇〇領域を手放す」といったような形です。味の素製薬とエーザイの消化器事業から生まれたEAファーマがこれに近いです。
そしてこれら全てに言えることは確実に人員削減があるということです。そうでないと合併するメリットがあまりないですからね。
一人当たりの生産性が増すように合併するわけです。結論としては製薬会社の経営が厳しくなった場合
- 医薬品の供給は維持されること
- 社員は減ること
上記の2点は間違いないと僕は考えてます。実際にいくつかの製薬会社で早期退職が実施されています。
薬価改定の影響について
薬価改定のルールが変わってきているのでこちらにも触れておきます。
簡単に言ってしまうと以前より薬価が下がりやすくなったということです。
一般的なメーカーであれば自社製品の値段は自社で決めるのが普通ですが製薬会社の場合薬の値段(薬価)を自社で決めることはできません。
誰が決めるのかというと国です。国が一方的に決めます。
そもそも物を作って売るメーカーの利益は物を売ることでしか確保できません。だから値段ってめちゃくちゃ大事です。
それを国にコントロールされてしまうので「この値段でもう少し売りたい」と製薬会社が思ったとしても「国がダメですよ」と言えばそれで終わりです。
そこでなぜ国が値段を決めているのかとうと補助しているからです。
風邪をひいたりして病院に行き保険証を出すと実際の3割の価格で診察を受けることができます。残りの7割は国が負担しています。
しかも現在の日本は高齢者社会なので医療費というのがかなり大きくなっています。
だから薬の値段を下げることと後発品の使用を促進することによって医療費の削減に力を入れています。
後発品が出ていない薬剤は値段を下げることしか国としては対策できないので予想より売れた薬は値段を下げますというのが国の方針です。
(例:小野薬品のオプジーボ)
まとめ
製薬会社は医薬品という絶対的なニーズがある製品を開発、販売してますので比較的安定な会社です。
ただ先発メーカーが存続していくためには新薬を開発し続けるしかないので厳しさは今後増すと思われます。
続きを書きました。
コメントを残す